よもやま話Yomoyama talk
ガラス製遺物から見えてくる一乗谷
「“ガラス”って何?」現在、ガラスは装飾品や各種の器具、日用品をはじめ先端技術に至るまで広範囲にわたって利用されている材料の一つです。ガラスは自然界に存在する黒曜石などの天然ガラスと人工ガラスがあります。人類がガラスと出会うのはかなり古く、石器時代における黒曜石などの天然ガラスの利用に遡ることができます。しかし、考古学や美術工芸をはじめとする文化財の分野では、ガラスといえば、一般に人エガラスを意味します。
ガラスを定義することは難しいのですが、一般には「加熱・溶融・冷却という過程で製造された非結晶質の物質でガラス転移点を有する」と説明され、決まった融点をもたず、加熱すると徐々に軟化し、最終的に液体になる物質です。古代のガラスは、その成分(化学組成)から大きく二つに分けられ、アルカリガラスと鉛ガラスに分けられます。
昭和42年(1967)から始まった一乗谷の発掘調査で出土したガラス製品には、ガラス玉約100点とガラス容器2点があります。平成21年(2009)の発掘調査において、建物内に炉跡を確認し、周辺からは4色のガラス玉や熔解したガラス滓、溶解した鉛や銅、水晶、石英などが出土し、科学分析からも鉛ガラスの工房跡として認知された大きな発見もありました。
また、ガラス容器では寺院が山際で展開する地区から出土した透明性の高い紫色のカリウム鉛ガラスの皿(産地不明)と、朝倉館跡から出土したリブ付装飾ガラス容器があります。このリブ付のガラス容器はアルカリガラスに属するソーダ石灰ガラスであり、リブ付という特徴的な形状や化学組成からベネチアン・グラスであることが判明しました。
平成26年(2014)、一乗谷で出土したガラス容器2点の復元を試みました。現代のガラス容器とは化学組成が大きく異なることから、往時の成分や色味などを再現するために多くの試作を繰り返して復元品は完成しました。
ガラス皿は、口径8.5cm ・ 器高2.1cmであったことが考古学的な実測図を描くことで判明しましたが、リブ付装飾ガラス容器については残存率が悪く、容器の全容が明確に判明していない資料でした。しかし、今回復元作業に当たったガラスエ芸史研究者の谷一尚氏とガラスエ芸作家でもある迫田岳臣氏との共同調査によって、英国ロンドンのビクトリア&アルバート博物館が所蔵している同時期のベネチア製のゴブレットが最も近い形態であったと考えました。日本で発見されているベネチア製の最古のゴブレットといえます。
ほぼ同じ形状と大きさのガラス皿が、全国の同時期の4遺跡から6枚出土していますが、有色のガラス皿は一乗谷出土の資料1点のみという特殊性を持っています。「どのような使用をしていたのでしょう?何処で作られたのでしょうか?」また、ゴブレットは、朝倉義景と室町幕府最後の将軍となる足利義昭が鑑賞したであろう庭園付近から発見されています。世界史の中では大航海時代といわれる時代です。「どのような経路で搬入されたのでしょうか?誰が、何を飲んでいたのでしょうか?」いろいろな疑問が湧いてきます。
一乗谷は様々な歴史資料の発見と調査研究によって、歴史の実像が深化してきているとともに、歴史的風景のイマジネーションを刺激するフィールドミュージアムといえるでしょう。
〈参考文献〉
独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所埋蔵文化財センター『埋蔵文化財ニュース124 古代のガラス』2006年
中井泉「X線で古代ガラスの起源を探る」『歴博 No.190』国立歴史民俗博物館 2015年