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FUKUI MUSEUMS [福井ミュージアムズ]

よもやま話Yomoyama talk

井田家所蔵古写真のデジタル化について

当館では、平成22年に「写された若狭」、平成24年に「若狭を撮る」と、井田家所蔵古写真を紹介する特別展を2回開催しています。井田家所蔵古写真は、そのほとんどが井田米蔵氏(1887―1968)の撮影によるもので、井田氏は小浜で写真館を営業するかたわら、カメラを担いで若狭各地へ出かけ、風景や町並み、建造物や船舶、漁業や農業などの暮らしの様子、祭りや風俗、古墳や仏像などの文化財、水害や戦時下の様子など、さまざまな写真を撮影しました。その、明治末から昭和30年代頃にかけて撮影された大量の写真原板(ガラス乾板とフィルム)4,000枚近くは、平成21年に一括して当館(当時は若狭歴史民俗資料館)へ寄託されています。

さて、特別展「若狭を撮る」の展示写真パネルや図録に使用するための、井田家所蔵古写真のデジタル化は、次のような手順で行いました。

  • 透過光のもとで原板(ガラス乾板・フィルム)をデジタル一眼レフカメラによりRAW画像で撮影
  • パソコンのRAW現像ソフトで、画像ファイルを16bitTIFF形式に変換
  • パソコンの画像処理ソフトでトリミング、2諧調化(グレースケール化)、諧調の反転、明るさ・コントラストの調整、部分補正、ゴミやキズの消去等を行い使用画像ファイルを完成

デジタルカメラで複写するのではなく、スキャニングによるデジタル化の方法もありますが、ガラス乾板をスキャニングできる業務用のフラットベッドスキャナはかなり高価であり、また、デジタル一眼レフカメラで撮影するのと同程度の画質を得ようとすると、1枚あたりの読み込みに相当時間がかかることがわかり、採用しませんでした。

撮影の際の透過光は、画面全体に光が均一に当たるフォトビューワーを用意する必要があります。

デジタル一眼レフカメラは、撮像素子が35㎜フルサイズで2400万画素のものを使用しました。平成22年の特別展「写された若狭」のときは、APS-Cサイズで1400万画素のものを使いました。5×7インチ(約12×16㎝)のガラス乾板からであれば、60×80㎝の大型パネルにプリントしても十分展示にたえる画質が得られました。

ガラス乾板・フィルムともにネガ画像のため、画像処理ソフトでの階調の反転その他の加工が必要となります。一般的なJPEG画像は加工によって画質が劣化してしまうため、撮影は必ずTIFF形式の画像ファイルが作れるRAW画像で行う必要があります。また、加工前のRAW画像は必ず残しておかなければなりません。加工の途中で失敗しても、最初からやり直すことができるからです。

RAW現像ソフトの多くは、ある程度の画像処理ができます。トリミングや2階調化など、画像処理ソフトよりも使い勝手のいい機能を持っているものもあります。

パソコン上で画像処理ソフトを使って加工していく際に、最も気をつけなければならないのが、モニターの調整です。ビジネス用の安価なパソコンのモニターは細かな調整ができないものが多く、また、初期設定ではかなり明るめでコントラストも高くしてあるものが多いようです。

「写された若狭」の使用画像の加工の際、このために失敗をおかしてしまいました。初期設定のままのモニターを使って作業をしていたため、モニター上では十分きれいな画像ができたと思って、パネル製作業者や印刷業者に画像ファイルを渡したところ、実際にはかなり濃い(暗い)画像であり、業者のほうで調節してもらうことが必要になってしまったのです。

そこで、特別展「若狭を撮る」に使用する井田家所蔵古写真のデジタル化は、平成22年の段階からいろいろとアドバイスを受けていた武藤茂樹氏(AVプロジェクト)に委託することにしました。武藤氏は小浜市在住で、明治時代から続く武藤写真館を経営。大阪芸術大学写真学科で学び、フォトグラファーとしても活躍中で、写真集『若狭あわいの地』(風景写真出版、2009年)は高い評価を受けています。フィルムでの写真撮影や現像・焼付等の経験が豊富なことはもちろんですが、自宅の写真館や大学の授業においてガラス乾板の取り扱いにも習熟しています。さらに、デジタルカメラでの撮影やパソコンでのフォトレタッチなどをいち早く業務に取り入れ、また、自宅に残るガラス乾板などの古写真のデジタル化にも取り組んでいます。井田家所蔵古写真のデジタル化を依頼するのに、これ以上ない最適の人材でした。

特別展「若狭を撮る」は、展示写真パネル、図録掲載写真ともに、武藤氏によるすぐれた画像によって、井田家所蔵古写真の魅力を十二分に引き出してもらっています。2枚から4枚の原版で分割されたパノラマ写真も、見事に一枚の写真として仕上げるなど、難しい注文にも期待どおりに応えてもらうことができました。

  • ガラス乾板の撮影(武藤茂樹氏)

  • ネガ状態のガラス乾板の撮影画像 透過光用のグレースケールを入れて撮影

  • トリミングと階調を反転しただけの画像 ゴミやキズが目立つ

  • 明るさ・コントラストを調整し、ゴミやキズを消去した完成画像

ところで、武藤氏に井田家所蔵古写真の原板撮影をしてもらう中で、いろいろなことを学ぶことができました。膜面(乳剤面)の観察からは、さまざまな修整の痕跡を教えてもらい、ニスのようなものを塗って乳剤の剥離を防いでいるガラス乾板は井田米蔵氏お気に入りの大事な写真だと考えられるといったことも指摘してもらいました。また、フィルムであるため昭和以降の新しい写真だと思ってたものが、実はガラス乾板から複製したデュープネガで、撮影されている内容自体は古いと考えられるということなども教えてもらいました。

このように、写された画像の解読だけではわからない重要な情報を、ガラス乾板やフィルムなどの原板そのものが有している場合があります。古写真の資料化にあたっては、武藤氏のような写真の専門家に参画してもらう必要があることを痛感した次第です。

デジタル機器の発達はめざましく、すぐに現在よりも高精細な画像で撮影することができるようになり、ガラス乾板が持つ豊かな情報量をさらに引き出すことが可能となるでしょう。現在ではよく見えていない細部まで克明に観察できるようになる日も来ることと思います。

井田家所蔵古写真は、そのデジタル化や資料化を急ぐ必要がありますが、同時に、ガラス乾板やフィルムなどの原板自体も大切に保管し、将来へ受け渡していかなければなりません。

(垣東敏博)
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